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2018/5/29 更新

TOUR OF JAPAN インサイドレポート vol.2【バーレーン・メリダ 前編】

今大会唯一のUCIワールドツアーチーム

チームバーレーン・メリダの選手たち。左から新城幸也、ワン・メイイン、ヘルマン・ペルシュタイナー、デビッド・ペル、グレガ・ボレ、ヴァレリオ・アニョーリ

今大会で最も注目すべきは、世界のトップカテゴリーに位置するチーム(UCIワールドツアーチーム)、バーレーン・メリダ。今大会ではバーレーン・メリダを重点的に追った。同チームに唯一の日本人選手として所属する新城幸也は、2009年ブイグ・テレコムでプロ入り以来、ツール・ド・フランスに7回出場。ロンドン五輪とリオ五輪の日本代表選手、世界の大舞台で活躍する日本のトップ選手だ。本人も2年ぶりのツアー・オブ・ジャパン凱旋ということで、勝つための意気込みが違っていた(2年前は大腿骨骨折後の復帰レースとして出場、伊豆ステージでは復活勝利を挙げている)。

UCIワールドツアーチームとして、力の差を見せつけたい

開幕前日の記者発表で、新城幸也は「UCIワールドツアーチームとして、力の差を見せつけたい。日本のチームに譲ることなく、いただけるものは全ていただいてしまうつもりで! 堺ステージの個人TT以外のステージは勝ちにいきたい」とコメントするほど、好調をうかがわせた。

開幕前日の記者発表でコメントする新城幸也

第1ステージ、 堺の個人タイムトライアルで8日間のスタートを切った新城幸也

スタート前、元ジロ・デ・イタリア王者のダミアーノ・クネゴとイタリア語で談笑するグレガ・ボレ(左)。過去に今大会で総合2位の実績があり、新城幸也とともにステージ優勝と総合優勝を狙える選手だ

レース会場ではユキヤにファンの行列

新城幸也は、どの会場でもファンの数NO.1だ。日本人トッププロ選手として、おごることなくファンを大切にしている。他の選手たちがレース前で集中するためにテントで休んでいるときも、みずから進んでファンの近くまで出向き、サインや記念撮影に応じていた。そうした人柄と2009年のツール・ド・フランス初出場以来、世界のトップシーンで活躍を続け、ファンを魅了しているのだ。ゆえに、日本のロードレース界での功績はとても大きい。

2020年東京オリンピック、その先2024年のパリオリンピックまで、日本のロードレース界を牽引していく意欲を見せている。

忙しい合間にも、積極的にファンサービスをこなす

サインや記念撮影を求めて大勢のファンが並び、丁寧に対応する姿が見られた

レース序盤戦、どんな展開でも勝ちを狙える体制

チーム監督のハラルド・モルシャーさんが言うように、今大会でチームはグレガ(ボレ)でも、ユキヤ(新城)でも、どちらでも優勝を狙える。

堺ステージで2.5秒差の7位でスタートしたグレガ・ボレが、第2ステージ京都のゴールスプリントでステージ2位となり、早くも総合リーダーとなった。しかし、最終第8ステージまで残る6日間のレースを6人で集団コントロールするのは容易ではないため、総合優勝を獲りに行きたい他の有力チームの展開によっては、ステージ優勝をメインに狙っていく考えだと監督は言う。例年大きなタイム差がつく、富士山ステージで選手たちがどの位置にいるかにもよるため、毎ステージの様子を見ながら判断していくことになりそうだ。

スタート前の選手たち。ハラルド・モルシャー監督(左から2人目)からレースの作戦、当日の役割分担の確認などが行われる

レース後半に備え、グレガ・ボレの後ろで登りを走る新城幸也

第2ステージの京都で、新城幸也を先頭に集団前方に位置するバーレーン・メリダ

ゴール後のチーム バーレーン・メリダ。僅差でステージ優勝はならなかったが、新城幸也もゴール手前でアタックして優勝争いの逃げを作るなど、好調ぶりを見せていた

第2ステージの京都から総合リーダージャージを獲得し、強さを示したグレガ・ボレ

バーレーン・メリダのチームカーに乗ってみた

スタート前に他のチームスタッフと談笑するバーレーン・メリダのモルシャー監督とメカニックのマティアさん

昨年の大会で会っているバーレーン・メリダのマーケティングスタッフ、ピーター・チェンさんとハラルド・モルシャー監督に許可をいただき、昨年に引き続きチームカーに同乗するチャンスをいただけた。

日本の道を初めて運転するモルシャー監督は「まず京都ステージで日本の道に慣れておきたいから、翌第3ステージのいなべで同乗していいよ」と言ってくれた。選手の総合順位が翌ステージでのチームカーの走る序列が決まるため、ボレが総合1位のバーレーン・メリダは赤いナンバー1をつけ、チームカーの隊列で先頭を走れる。

私は、2016年大会で大会ディレクターの栗村修さんから頼まれてピシュガマンチーム(イラン)のチームカードライバーを8日間経験したことがあり、チームカーがどんなものか少しは知っているので、ここでチームカーと普通のクルマとの違いを紹介したい。

ロードレースに帯同するチームカーとは?

チームカーの車体自体はスバル・レヴォーグのノーマル車だが、緊急時に備えてスペアのバイクやホイールを積んでいることと、レース用の無線機を搭載しているのが普通のクルマと違う大きなポイント。レヴォーグはキャリアにバイクを積んだ状態でも、高速コーナーでの安定性が抜群で、サイクルロードレースではノーマル車でも十分な走行性能を発揮する。

あとはレースをよく知っている監督とメカニックが乗ることで、はじめて選手たちをしっかりとサポートできる。レース中の適切なタイミングで選手とコミュニケーションを取り、補給を渡すなど、ロードレースに欠かせない大切な存在だ。

チームカーの運転席。無線機が2種類(レース状況を伝えてくれる大会コミッセール用、選手と監督が交信するチーム用)、ドア側に補給食、選手のスタートリストが貼ってある

後部座席にはスペアホイールや補給用のボトル、工具類が積まれている

レース中後部座席に乗る、イタリア人メカニックのマティアさん。昨年のツアー・オブ・ジャパンでも来日していた

第3ステージ、レーススタート

第3ステージは三重県いなべ市で行われた。阿下喜駅からパレード走行をした後、いなベルグとも呼ばれる劇坂を含む、アップダウンが多い14.8kmの周回コースを8周する。総合優勝争いにも影響するステージだ。

チームは新城幸也かグレガ・ボレでステージ優勝を狙う作戦だ。

第3ステージいなべでグリーンの総合リーダージャージを着てスタート地点に立つグレガ・ボレ。チームは総合リーダーのキープよりも、ステージ優勝を優先的に目指す

チームカーから見たメイン集団。選手たちの後ろにはバイクカメラ、オーガナイザー(主催者)、コミッセール(審判)、ニュートラルカー(機材車)、ドクターカー、チームカーの隊列が続く

リアルスタート直後、大きなアクシデントが発生

レース序盤は大きな集団で進み、周回コースに入った直後に数名の選手が巻き込まれる大きな落車が発生した。無線で負傷した選手たちのチーム名が呼ばれる。そのなかにはチーム バーレーン・メリダの名前もあった。チームカー内に緊張が走る。

車を降りて遠目に選手を見た瞬間、バーレーン・メリダの選手が新城幸也だとわかった。監督がすぐに駆けつけ、メカニックもスペアバイクを準備した。ドクターのチェックもすぐ済み、選手たちは全員再スタートを切り、集団復帰へと向かった。

私は、この大会に懸けていた新城幸也のことを思うと、ショックが大きすぎて何も言えない心境に陥ったが、モルシャー監督やメカニックのマティアさんは、大きなアクシデントでも非常に冷静に行動していた。そうでなければ、プロチームのスタッフは務まらないのだろう。

チームのエース、新城幸也が序盤で思わぬ落車に巻き込まれ、顔や肩を負傷した。ドクターカーから救護班が駆けつける

すぐさまチームカーからスペアバイクを取り出すメカニック

ハラルド・モルシャー監督はすぐに新城幸也のそばに駆けつけていた

不屈の闘志でレースに復帰、献身的な走りを魅せた新城幸也

この後、新城幸也はドクターカーから怪我の治療を受けながら集団に復帰する。左目が大きく腫れていて、怪我の影響が心配だったが脚は何とか大丈夫な様子だ。

新城幸也自身、勝ちにいこうとしていた大会だっただけに、このアクシデントは悔やまれた。しかし、彼は不屈の闘志で集団復帰した後、かなり長い時間先頭を引いて、この日ステージ優勝のためエースを担うことになったグレガ・ボレのために献身的な走りを見せた。本来は、新城幸也がこのステージで優勝を狙えるはずだったが、残酷にも落車によって状況は変わってしまったのだ。

この日、新城幸也が最後まで魅せてくれたように、刻々と変わるレース状況のなかで、それぞれがプロとしての役割を果たした。1人のエースを勝たせるために、他の選手が自分を犠牲にしても、チームが一丸となって献身的な働きをする。それこそが、ロードレースがチームスポーツと言われる由縁なのだろう。

 

この後は、チームカーからの動画も交えたバーレーン・メリダ特集の後編、ダミアーノ・クネゴ引退前ラストレースの様子、レース後半戦で活躍した選手たちの模様をお伝えしていく。乞うご期待。

 

TOUR OF JAPAN 2018
www.toj.co.jp/2018

TEXT & PHOTO :加藤 修(Shu Kato)
バイシクルクラブ本誌では、ファビアン・カンチェラーラやアルベルト・コンタドールの引退独占インタビューを執筆。国内UCIレースをはじめ、各地のローカルレースを取材する。一方、日本でサイクリングを人気スポーツにしていくために、女子サイクリングアカデミー「High Ambition Womens」を手がけ、若い選手たちやホビーサイクリストたちの活動PRやサポートをしている。

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