バイシクル特集

2017/6/3 更新

ベルギーの元名プロ選手、ヘンドリック・ルダン監督に密着取材

JAPAN CUPで優勝の思い出がある、美しい日本のレースで活躍したい

日本のUCIレースを走った印象をルダン監督に尋ねてみると、

「日本は26年前のJAPAN CUP優勝の思い出もあるし大好きな国で、観客は皆さん温かく応援してくれて優しい。TOUR OF JAPANはよくオーガナイズされていて、自然が豊かなコースも素晴らしい。滞在中は日本食も美味しいし、今年も楽しみにしていた。もちろん8ステージのレースの中で勝ってUCIポイントを獲得すること、また日本のファンやPIONEERなど日本のスポンサーに対して活躍をアピールすることも大切なミッションの一つだ。」と語った。

また、UCIワールドチームへの昇格を視野に入れて活動しているそうで、そのためにさらなるスポンサー獲得もチームの重要な仕事だと言う。

「年間5億円ほどあれば今のUCIプロコンチネンタルチームでは上位で活動できるが、UCIワールドツアーチームならさらに大きな年間予算が必要となるのが現実。もちろん日本の大きなスポンサーがつけば、有望な日本人選手もチームに入れたいね!」とも。

昨年JAPAN CUPでファビアン・カンチェラーラの引退インタビューをさせてもらった時も、プロ選手の活動や若い選手の育成、このスポーツがこの先発展していくためにはもっと多くのお金が必要なんだと、あの偉大な世界チャンピオンがしきりに語っていたことを思い出す。

初日堺ステージの個人タイムトライアルでは、ダニエル・サマーヒル選手が幸先よくステージ優勝を飾りリーダージャージを獲得。第2ステージ 京都ではリーダーチームとして走った。

 

日本のロードレースのさらなる発展とレベルアップを願う

レース中に日本のレースについて、ルダン監督はこうも語っている。

「日本のレースオーガナイズ、コミッセール、チームカーやニュートラルカーの動き、補給地点の設定など、まだまだ本場ヨーロッパのUCIプロレースに比べると未成熟な点も見受けられる。それは彼らがヨーロッパでレースに携わった経験が少ないからだろう。

選手は1987年ベルギーのHITACHIチームでプロデビューしたマサ(現Vitesse代表の市川 雅敏氏)以来、多くの日本人ライダーがヨーロッパで経験を積んでいるが、これからは多くのレース関係者もヨーロッパへ行って経験を積んで本場のロードレース文化を日本で伝えられると良いだろうね。

時折、レース中になぜこうなるんだ?と疑問に感じる瞬間もあったが(教える意味で、関係者に対して大声で意見する場面も見受けられた)、結果的に無事にレース運営がされ、我々も安全にチーム活動が終えられたのでハッピーだよ」

余談だが、今回唯一のワールドツアーチームとして来日したバーレーン メリダ監督のトリスタン・ホフマン氏とは旧知の仲で、ルダン氏が初めてTVMチームで監督になった時のいわば「教え子」であり、ホフマン監督自身はかつてパリ~ルーベで2位に輝いた素晴らしいプロ選手でもある。

ステージレースの魅力、総合優勝争いだけがすべてじゃない

第1ステージでリーダージャージを獲得、リーダーチームとして京都ステージを走ったが、NIPPOのマルコ・カノラ選手が鮮やかな単独アタックと逃げ切りでステージ優勝をさらって総合リーダーのグリーンジャージを獲得した。

そのことについて、ルダン監督は「総合優勝だけがすべてじゃない」と語った。「このTOJは富士山ステージだけで総合優勝が左右される、ある意味特殊なステージレースでもある。だから我々のようなトップクラスのクライマーがいないチームにとっては、その他の7ステージで優勝を挙げることの方が意味がある。総合優勝を狙える布陣で来ているいくつかのチームは総合優勝を狙い、ステージ優勝狙いで来ているチームはステージを狙えばいい。それぞれに特色があり、思惑があるんだ。それらの要素が複雑に絡み合うからレースは予想外の展開が起こることもある。だから見ているファンは面白いんだ。」

京都ステージの後にしばしの反省会はあったが、翌いなべ以降のステージ優勝を目指してすぐに気持ちを切り替えていた。選手たちを励まし、次の目標に向け個々のライダーたちに合った言葉で声をかけ、モチベーションを上げていくのも監督の重要な役割だ。

勝利の明暗を分けたものとは?レースはいつもエキサイティングだ

前日の京都に続き第3ステージいなべもルダン監督のチームカーに同乗させてもらい、助手席からレースを見てきた。

15.2kmコースを8周する127kmで毎周KOMとゴール手前の厳しい登りがやってくるタフなコースという印象だが、スプリンターのセバスチャン・アエド選手でステージ優勝を狙った。以前サクソバンクのプロ選手としてUCIワールドツアーでも優勝経験のあるスプリンターだが、彼らのレベルだとこの程度の登りなら日本のトップクライマーに負けない力で登りをこなせる。これも日本最高峰のステージレース、TOUR OF JAPANで見てきた現実だ。

 

今回ステージ3勝を挙げたNIPPO VINI FANTINIのマルコ・カノラ選手もスプリンターだが、京都ステージでは見事にラスト10kmあまりを逃げ切り、翌いなべステージでは2連勝を挙げ、さらに登りの厳しい南信州ステージではあっさり3勝目を挙げてしまった。

ルダン監督は昨年までユナイテッドヘルスケア チームにカノラ選手が所属していたゆえに特性を熟知していて、京都ステージで無謀とも思えるラスト10kmの逃げを打った時「マルコならこの10秒差できっと逃げ切れるんじゃないか?」と語っていた。私は当たり前のようにこの逃げは捕まるだろうと言ったが、その10数分後にそれは現実となった。

彼らのような才能ある選手を発掘・育成するのも監督の大きな役割といえる。もちろん選手たちはプロである以上、より環境や金銭面で条件の良いチームへ移るのは仕方がないことだ。常にケガや故障などのリスクが伴うプロ選手の選手生命はその選手にもよるが、平均的に決して長いとは言えないからだ。

@TOJ2017

僅差のステージ2位に終わったいなべステージの後、セバスチャン・アエド選手とコミュニケーションを取るルダン監督。今回はステージ3勝も挙げたカノラ選手と「かつてないほど6人全員が強い」と大門監督が語ったNIPPO VINI FANTINIチームが強かった。彼らはゴール前でアシスト4人が前方に位置し最後は窪木選手が素晴らしいリードアウトを見せた。その時ユナイテッドヘルスケア チームはゴール前のラスト1kmでアシストを全員失い、アエド選手は単騎でのスプリントを強いられたのだ。その状況下で僅差の2位は、むしろ賞賛に値する走りだったとも言える。アエド選手は、いわば勝者の影に隠れたもう一人のヒーローだ。

ロードレースは結果で勝者だけを見てしまいがちだが、チームカーからその前後に起きたすべての状況も見てみると各チームや選手たちに様々なドラマが起きているのが分かって面白い。テレビなどのロードレース中継でもそれは垣間見ることができる。

勝者には勝者の、敗者には敗者のそれぞれにドラマがある。そして全力を尽くしたチーム、選手たちの姿は本当に清清しく、美しいとすら感じる瞬間があった。

このスポーツの素晴らしさを、今年のTOUR OF JAPANであらためて体験した。これからもレース現場で起きる様々なドラマをその魅力と共にお伝えしていきたいと思った。

 

Photo & Text :Shu Kato

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