バイシクル特集

2019/2/21 更新

スチールパイプの基礎知識【スチールバイク特集】

細く美しく、独特のしなりによって極上の乗り味を体感できるスチールバイク。それは、フレームであれば8本の、フォークも含めれば11本のパイプから構成されている。

部材に同じ曲げモーメントに耐える強度を求めるのなら、無垢の棒よりも外径を太くしたパイプにしたほうが、より軽くなるので効果的だ。
初期の自転車は鉄板を叩き、丸くしてパイプを作ったというが、やがてより均一かつ肉薄なパイプが求められ、1885年にドイツのマンネスマンによって継ぎ目のないシームレスパイプが開発される。
いまではあたりまえとなったバテッドパイプは、応力のかからない部分の肉厚を薄くすることで、さらなる軽量化を果たしたパイプだ。
最初に開発したのは有名なイギリスのレイノルズで、1890年に量産が始まった。

時代とともにラインナップは増え、さまざまな厚みや径のものが作られた。
さらに添加物の含有比率を変えたり熱処理をしたりすることによって、硬さやねばり、重量など、シーンに合わせたさまざまな特性が与えられている。
歴史は古いが、いまも進化を続ける素材なのだ。

クロモリファンなら知っておきたい
スチールパイプの知識

ここではバテッドや熱処理、またはパイプ自体の組成についてみてみよう。
素材=フレームの性能と思われがちだが、たとえすぐれたパイプを使っていても、正しく製作されなければすぐれたフレームはできない。数百度Cという高温にさらされるパイプは、熱影響によって特性が変化したり、強度が低下してしまったりする場合がある。つまり、パイプが持つ特性によって、正しい製法を選択しなければならないのだ。
本来は作り手側の話になるが、クロモリをより深く理解するためにも、覚えておくといいかもしれない。

Point 01 バテッド

応力がかかるパイプ端部を厚くし、そうでない部分を薄くした構造のことで、軽さと強度を両立したパイプ。厚みが2段階になっているものをダブルバテッド、3段階になっているものをトリプルバテッドという。ちなみに、バテッドのないパイプはプレーン管とよばれる。加工方法はさまざまだが、多くはロールとダイスを使って引き抜き加工される。

バテッド部分は、パイプの内側を覗くとわかる。写真はKVAのフォークブレードだが、内側にバテッドの線が確認できる

バテッドパイプの断面イメージ。一般的に厚みが変化する部分はテーパー状となっている。段差のない無段階バテッドというものも存在する

Point 02 熱処理

引張強度や疲労強度などを向上させるために、高温に熱したあと、冷やしてパイプの組成を変化させる技術。ヒートトリーテッドともよばれる。何℃まで熱するか、何℃まで冷やすか、どうやって冷やすかによって効果が異なり、また材質によっても違う。焼き入れだけすることはなく、焼き入れ後に焼き戻しまたは焼きなましをするのが一般的だ。

【焼き入れ】
金属をある一定の温度(変態点)まで加熱し、その後急冷する熱処理のこと。パイプ内にマルテンサイト組織を形成することで、硬く、耐摩耗性や引張強度、疲労強度を向上することができる

【焼きなまし】
金属をある一定の温度(変態点)まで加熱し、その後ゆっくりと冷やす熱処理のこと。組織をオーステナイト化させ、焼き入れで生じた残留応力を取り除く。焼きなましは金属をやわらかくする

【焼き戻し】
金属をある一定の温度(変態点以下)まで加熱し、その後急冷する熱処理のこと。マルテンサイトは硬いがもろいので、焼き戻しをして靱性や硬度を取り戻す。温度によって異なった効果を得られる

 

Point 03 接合法

フレームはパイプとパイプを接合して作られる。現在行われているおもな手法が右の3つだ。まずロウ付けと溶接は区別されていて、母材(フレームの場合はパイプやラグ)を溶かすか否かで分かれる。母材を溶かさずに接合するのがロウ付け、母材を溶かして接合するのが溶接だ。ロウ付けは非常に手間がかかって生産性は低いが、スチールバイクらしいラグワークなどにファンが多い。いっぽう、生産性にすぐれ、量産型に向くのがティグ溶接だ。

ラグレス
ラグを使わない接合法=ラグレスといわれるが、もともとはユーテクティック・16番というロウ材を使った低温溶接を指した。現在はロウを接合部に盛り込み、美しく削ってフィレット仕上げにしたものを指す。軽量に仕上がる

ティグ
ティグとはTangsten Inert Gasの略で、タングステン不活性ガス溶接という電気溶接の一種。さまざまな金属を溶接でき、独特のビード(溶接痕)が特徴だ。母材への熱影響が少なく、軽量かつ生産性が高い接合法

ラグ
パイプをラグ(継手)でつないでロウ付けする、昔ながらの接合法。ラグには応力分散と意匠の目的があり、ビルダーの個性を演出する部分でもある。ロウ付けは一般的に真鍮ロウが使われるが、パイプやロウ付け箇所によって銀ロウを使うことも。よけいな熱を与えることなく、すばやくロウ付けするには技術が必要

 

Point 04 組成

クロムモリブデン鋼やマンガンモリブデン鋼などさまざまあるが、いずれもスチール=鋼だ。これは鉄にいくつかの添加物を与えることで得られる合金であり、その添加物の含有率、すなわち組成によって物性値が異なる。おもに含まれる五元素が炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄だ。また、これら以外の重要な元素として、クロムやモリブデンなどがある。左にフレーム用パイプによく添加される元素と、それらが及ぼす影響を示す。

C【 炭素 】
鋼にとって重要な元素で、硬さや強度に影響する。炭素量が多いほど硬くなるが、そのぶんもろく(折れやすく)なる。焼き入れ性にも影響する

Cr【 クロム 】
炭化物を生成し、鋼の焼き入れ性を向上する元素。また、焼き戻し時の軟化を抑制し、耐摩耗性や耐食性、引っ張り強さも向上する

Mn【 マンガン 】
ねばり強さ(靱性)に影響する元素。マンガンが多いほど引っ張り強さや耐衝撃性が向上し、また焼き戻し時の軟化を抑制する働きも持つ

Mo【 モリブデン 】
焼き入れによる硬化層を深くし、ねばり強さや引っ張り強さ、耐摩耗性を向上する元素。レアメタルのひとつで、非常に高価なのがデメリット

Ni【 ニッケル 】
ねばり強くなり、耐衝撃性を向上する元素。また、熱処理をしやすくし、耐食性や耐熱性もよくする。貴重な元素でもあり、価格が高いのが難点

V【 バナジウム 】
鋼の組織を微細化して、強い靱性を発揮する元素。金属としてはやわらかいが、組織内では硬い炭化物を生成し、耐摩耗性を向上する

Si【 ケイ素 】
最大降伏点や引っ張り強さを向上する元素で、耐熱性にも影響する。効果は炭素の約1/10程度だが、添加しすぎるともろくなる面もある

P / S【 リン / 硫黄 】
加工性を向上するために添加されるが、リンは低温(氷点下)でもろくなり、硫黄は溶接性が悪化する面もあり、極力少ないほうがいいとされる

 

Point 05 強度

フレーム製作時におけるパイプ特性にはどんな変化があるのか。すでに廃番となったパイプもあるが、参考として2000年に実施された国内外パイプについての研究資料を示す。これは各接合法について、それぞれの破断回数を調査したものだ。溶接法によって、同じパイプでもまったく違う結果がでていることに注目したい。パイプ特性はその時代の製法(需要)と深い関わりがあることがわかるだろう。カイセイ・8630においては、ロウ付け後の溶接部強度が向上するとされていたが、それが正しかったことを証明している。パイプ特性に応じて、ベストな製法を選択することがすぐれたフレームを作る必須条件だ。

下パイプ(肉薄部)の繰り返し疲労試験における破断回数
(出典)自振協技術研究所研究報告書「内外フレーム用パイプの調査〈続報〉」より抜粋

TEXT:編集部 PHOTO:大星直輝/村上修子/森近真
(出典:『クロモリロードバイクの本』)

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