バイシクル特集

2019/5/8 更新

そこにショーがあるから【革命を起こしたいと君は言う…】

ナーブスの歴史

毎年アメリカで開催される「North American Handmade Bicycle Show」。2005年に始まった通称NAHBS(ナーブス)は今年で15回を迎え規模は年々大きくなり、今では世界中のフレームビルダーが集まり、個性豊かな自転車たちが展示される世界最大のハンドメイドビルダーの祭典だ。

われわれは2009年より出展を続けており、コンテストでは最高賞を含め数々の賞を獲得させていただいている。

流行に敏感なハンドメイドビルダーたちのイベントでもあり、これからくる輪界のトレンドを先取りしている。多くのサイクルメーカーの企画者たちが集まるのも特徴だ。

ショーモデルを作る意味

「なぜショーモデルを作るんですか?」とよく聞かれる。理由はいろいろある。
新モデルの実験車両を製作するいい機会にもなったり、日々考えていた新しい試みを発表し意見も聞ける場となることも多くある。

また、今ではケルビムのショーモデルを見てビルダーを目指しサイクルデザイン専門学校に入学した生徒も多くいる。変わった車両を作れば自転車以外のメディアに取りあげられビルダーという仕事を知ってもらえる。

ときには鉄のサドルを作って怒られたりといった失敗も多くあったが、結果としては少なからず誰かの気持ちを動かして来た実感がある。
いろいろ意味はある。しかし簡単にいえば。Because it’s there(そこに山があるから)だ。加えていうと「そこにショーがあるから本気で挑む」。

多くの人が来場し、多くの人がその運営にも携わる。出展するからにはベストをつくす。それでこそ自転車界に貢献できるというものだ。

チームショーモデル

いい仕事をするにはチームが不可欠だ。デザイン、設計、製作、ペイント、アッセンブル……、いいチームを作らなければならない。私はプレイヤーでありディレクターでもある。

アトリエの絶妙なバランスが現在のケルビムだ。もちろん工房のみでは専門的な加工等や設備の問題により、不可能なことも多い。
その場合、そのプロたちとタッグを組み製品を作り上げていく。今回タイトなスケジュールのなか、完璧な仕事をこなしてくれたメンバーを紹介したい。

CNC加工、スリック

今回の試みの一つに今後主流となる規格「スルーアクスル、ディスク仕様」をスチールの利点を生かしつつ動作、精度、製作工程の完成度を上げるというものがある。

スリックさんはこちらの度重なる試作製作にお付き合いいただきほぼ完成形をショーモデルに使用できた。自転車に精通するCNC加工の技術者は頼もしいばかりである。

スリック製のケルビムオリジナルスルーアクスル&フラットマウント用リアエンド。初期段階のイラストと比べると細かな変更がわかる

最初期のスケッチ。いつもこんな一枚のお絵かきから広がっていく。大径チューブ実現に、京都の職人さんが道を照らしてくれた

京都の挽物屋さん

機械加工の世界では「旋盤加工」のことを「挽物加工」と言う。今回のデザインはスチールフレームでは前代未聞の50mm径以上のチューブを試したかった。

肉厚1.0mmのクロモリチューブを手配することはできたが、さらに肉厚をそぎ落としバテッド加工がしたい。

実験モデルなのでこのまま製作しても問題はないが、その加工を試験的に行い今後につなげたい。しかし大径チューブをコンマ単位で削り、精度の高いバテッドを作れる職人はそうはいない。
知り合いのビルダーに話したところ、京都で機械加工業を営む職人さんを教えてもらった。

タイトなスケジュールで最初は難色を示し断られたのだが、再度電話がかかってきて「なんとかやってみますよ」とのお返事。すぐにチューブを送り、2日で作業をして頂いた。
すばらしい精度で仕上げて下さり、地味な部分だが今回のモデルの肝となっている。

後日知り合いに聞いてみると、その職人さんは「できない」という言葉が嫌いで、自身の職人魂で作業をしてくれたとのこと。私の顔も、会社も知らない人間の依頼を引き受けていただき、感謝の言葉しかない。

アトリエ・キノピオ

イタリアで培った技術と経験を生かした、木製自転車製作の草分け的な存在。さらにスチールフレーム製作からペイントまで、まさにマルチな職人集団だ。仕上げはチーフビルダー安田氏にお願いする流れとなった。

ウレタン塗装をベースとし何層も塗料やクリアコートを重ね非常に手間のかかる塗装は息を呑むほど美しい。またデザインセンスも天下一品。今回はおよそのイメージだけを伝え細かな仕様はすべて彼にお任せした、キノピオ×ケルビムのコラボレーション作品でもある。

製品はわれわれの顔であり、その最終イメージを任せるというのはよほどの信頼関係がなければあり得ない。日ごろ彼の仕事を拝見していることは無論だが、アメリカや台湾など、各国の展示会ごとに顔を合わせ酒を酌み交わした仲であることも大きな理由のひとつだ。今後ケルビムのオプションペイントもキノピオにお願いをすることになった。

最終的な仕上げはアトリエ・キノピオの安田氏の手によって美しくペイント

ケルビムスタッフ

ショーモデルなどは、私が手を動かさなくても作業が進んでしまうのだから本当に驚きだ。手前味噌だがすばらしいスタッフたちにあらためてめてお礼を言わせていただきたい。

チームで動く、それが人間

私は物づくりに携わる職人であり、いろいろな物作りを知りつくしているような顔をしている。しかし外を歩きまわりを見わたすと、途方もない無力感に襲われることがある。

高層ビルもクルマも家も、さらにいえば道路脇にあるガードレールに電柱、目の前にあるマウスひとつでさえ作れないのだから当然だ。

建築を見ると、これが本当に人間が作った物なのか?と驚きを隠せない。しかし、この無力感から解放されている自分もいる。それは「作れない」に「一人では」を付け足すことでおおむね解決するからだ。

私はただ先人たちの叡智をつなぎ合わせ、多くの人間の技術や時間をつなぎ合わせているにすぎない。それこそが文明を作ってきた根本的な答えかも知れない。

ショーに向けて

この原稿を書いているときはまだショーモデルは塗装から戻ってきてない。もちろん、まだ誰からの評価もない。
しかし、私のなかではショーは終わり大成功している。なぜなら、すばらしいチームを作り一生懸命みんなとベストをつくした達成感があるからだ。

それこそショーの最大の意義であり、いちばんの思い出となる。あとはショーを楽しむだけだ。

パイプ構造のスチールフレームとフラットマウントブレーキは相性が悪い。このシステムは弱点を克服した

Cherubim Master Builder
今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている

今野製作所(CHERUBIM)

(出典:『BiCYCLE CLUB 2019年5月号』 )

 

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